結婚相談所は、資格も許認可もなしに個人で開業できます。自宅で、副業から始めることもできます。上位の解説記事はどれもここを強調しますが、その先が抜けています。
会員と契約を結ぶ以上、負う義務は法人とまったく同じです。結婚相手紹介サービスは特定商取引法の「特定継続的役務提供」に指定されていて、契約前と契約時に書面を交付する義務があります。会員のプロフィールには個人情報保護法の「要配慮個人情報」が含まれることもあり、こちらは取扱件数による除外規定がありません。一人でも例外にはなりません。
この記事では、条文と各省庁の公式ページを実際に開いて、個人で開業するときに実際に必要になる手続きと書類を整理します。数値と条番号はすべて2026年9月時点の確認です。
- 開業前に出す届出と、その提出時期(国税庁の原文)
- 最優先で整えるべき契約書類(特定商取引法)
- 会員情報に含まれる「要配慮個人情報」の扱い
- 一人でどこまで会員を抱えられるのか(IBJ公開データからの計算)
- 連盟に加盟するか、独立系でいくかの判断材料
結論:個人でも自宅でも開業できる。ただし義務は法人と同じ
結婚相談所の開業に資格・許認可は不要です。一方で、事業者としての義務は開業形態や規模で変わりません。「個人だから簡単」ではなく、「個人でも同じだけ準備がいる」と考えてください。
| 項目 | 個人(一人・自宅・副業) | 法人 |
|---|---|---|
| 資格・許認可 | 不要 | 不要 |
| 開業の届出 | 税務署に開業届 | 法人設立登記など |
| 特定商取引法の書面交付義務 | あり | あり |
| クーリング・オフへの対応 | あり | あり |
| 中途解約時の精算ルール | あり | あり |
| 個人情報取扱事業者としての義務 | あり(件数の除外規定なし) | あり |
つまり、開業のハードルが低いのは参入の部分だけです。契約と個人情報の部分は、規模に関係なく同じ水準が求められます。ここを飛ばして開業すると、最初の会員と契約する時点で問題になります。
開業前に出す届出と、その提出時期
開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)
税務署に提出します。提出時期について、国税庁の手続案内ページには次のとおり書かれています(出典:国税庁 A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続、2026年9月確認)。
事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出してください。
「開業から1か月以内」と説明している記事もありますが、国税庁の手続案内ページの現在の記載は上記のとおりです。提出時期は上のページで直接ご確認ください。なお開業日は自分で記入する項目で、この日付が補助金を使えるかどうかを分けます。詳しくは助成金・補助金の記事にまとめています。
青色申告承認申請書
青色申告をするなら別途申請が必要です。期限は次のとおりです(出典:国税庁 A1-8 新たに青色申告承認申請をする場合の青色申告の承認申請)。
青色申告の承認を受けようとする年の3月15日までに……提出してください。ただし、その年の1月16日以後新たに事業を開始した場合には、事業開始から2ヶ月以内。
開業届と同時に出しておくのが確実です。開業届だけ出して青色申告の申請を忘れると、その年は白色申告になります。
最優先で整えるのは契約書類(特定商取引法)
事務所や名刺より先に用意すべきものがあります。概要書面と契約書面です。「結婚相談所 個人 開業」で上位表示されている解説記事5本を実際に読んで確認しましたが、この書面義務に触れているものは1本もありませんでした(2026年9月調べ)。結婚相手紹介サービスは特定商取引法の「特定継続的役務提供」に指定されており、この2つの書面を交付することが法律上の義務になっています。
どんな契約が対象になるか
対象になるのは「期間が2か月を超え」かつ「金額が5万円を超える」契約です(特商法41条、同施行令24条および別表第四)。月会費制で半年〜1年の活動を前提にする一般的な結婚相談所の契約は、ほぼ該当します。
料金の決め方が、義務のスイッチになる
結婚相談所の料金は、入会金・月会費・お見合い料・成婚料を組み合わせるのが一般的です。ここで意識しておきたいのが、「2か月を超え」「5万円を超える」という線引きです。
- 月会費1万円で1年間の活動を前提にすれば、それだけで期間・金額の両方を超える
- 入会金を10万円に設定すれば、金額要件は初回で超える
- つまり現実的な料金設計をすると、ほぼ確実に特定継続的役務提供に該当する
逆に、要件を外そうとして契約期間を2か月以内に区切ると、今度は会員が腰を据えて活動できない商品になります。結婚相談所は成婚まで数か月から年単位かかる事業なので、短期契約は事業として成立しません。
「該当しないように設計する」ではなく「該当する前提で書面を整える」のが正しい向き合い方です。
事業者に課される義務
- 書面を2回交付する:契約する前に概要書面、契約したときに契約書面(42条)。記載事項は法定されており、役務の内容、対価、支払時期と方法、役務提供期間、クーリング・オフに関する事項、中途解約に関する事項などを含む
- クーリング・オフ:契約書面を受け取った日から起算して8日間は無条件で解除できる(48条)。事業者は違約金や損害賠償を請求できず、受け取った金銭は速やかに返還する
- 中途解約はいつでも可能:請求できる金額の上限が政令で決まっている(49条)
- 財務書類の備置きと閲覧:前払いで5万円を超える金額を受け取る場合、業務および財産の状況を記載した書類を事務所に備え置き、会員から閲覧や謄本交付を求められたら応じる(45条、施行令27条)
- 誇大広告・不実告知の禁止:役務の内容や効果について著しく事実と相違する表示、著しく優良・有利と誤認させる表示は禁止(43条・44条)
条文はe-Gov法令検索 特定商取引に関する法律で、制度の概要は消費者庁 特定商取引法ガイド 特定継続的役務提供で確認できます(いずれも2026年9月確認)。
中途解約されたときに手元に残る額
| 解約のタイミング | 事業者が請求できる上限 |
|---|---|
| 役務提供の開始前 | 3万円(施行令 別表第四 第四欄) |
| 役務提供の開始後 | 提供済みサービスの対価に相当する額 + 2万円 または 契約残額の20% のいずれか低い額(同 第三欄) |
さらに消費者庁は、入会金について「入会金は返還しない」といった特約は無効との見解を示しています(出典:消費者庁 特定継続的役務提供Q&A)。入会金を受け取っても、活動開始直後に解約されれば手元に残せるのは提供済みサービスの対価と上限2万円だけです。
つまり前受金は「入金」であって「確定した売上」ではありません。一人で運営していると、この返金原資を運転資金に回してしまいがちです。収益構造への影響は儲からないと言われる構造を検証した記事で詳しく扱っています。
自宅開業でも副業でも、この義務は同じです。「個人だから簡易な契約書でいい」という例外はありません。書面の作成にあたっては弁護士など専門家への確認をおすすめします。
会員情報には「要配慮個人情報」が含まれる
会員のプロフィールを預かる時点で、あなたは個人情報取扱事業者です。取り扱う件数による除外規定はありません。会員が1人でも同じです。
個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)では、個人情報取扱事業者を「個人情報データベース等を事業の用に供している者」と定義しており、取り扱う個人情報の件数による除外規定は記載されていません(出典:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」、2026年9月確認)。
とくに注意が必要な11項目
本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実、身体障害・知的障害・精神障害等の心身の機能の障害、健康診断等の検査結果、健康診断等に基づく医師等による指導・診療・調剤、被疑者・被告人として刑事事件の手続が行われたこと、少年法上の少年として保護事件の手続が行われたこと。これらが要配慮個人情報です。
婚活のヒアリングでは、この中のいくつかに触れる場面があります。要配慮個人情報の取得と第三者提供には、原則として本人の同意が必要です(個人情報保護法20条2項)。
- ヒアリングシートに持病や通院歴を書かせるなら、取得の同意を書面で取る
- 宗教や支持政党にあたる希望条件を扱うなら同様
- お見合い相手やその相談所へ会員情報を渡す行為は第三者提供にあたる。連盟のシステムを使う場合も、何がどこまで共有されるのかを会員に説明しておく
- 自宅開業なら、紙の申込書やパソコンを家族が見られる状態に置かない
連盟に加盟すると会員データの管理はシステム側でかなり整いますが、あなた自身が取得する情報の同意は、あなたが取る必要があります。
一人でどこまで会員を抱えられるのか
業界最大手IBJの公開データから計算すると、加盟相談所1社あたりの平均会員数は約23名です。一人で運営する相談所の規模感は、この数字が目安になります。
2026年6月末時点で、IBJの加盟相談所は4,797社、登録会員は109,712名でした(出典:IBJ 2026年12月期第2四半期決算説明資料、2026年8月14日公表)。109,712 ÷ 4,797 = 約22.9名です。成婚のほうは、2025年通期の成婚組数20,970組を同年末の加盟相談所4,766社で割ると年4.40組、月にすると0.37組になります(出典:IBJ 2025年12月期通期決算説明資料)。
なお、これらはIBJが公表している指標ではなく、公表値を当サイトが割り算したものです。休眠状態の相談所も分母に含まれるため、実際に稼働している相談所の平均はこれより高くなります。それでも「一人で何十人も抱えて成婚を量産する」という前提で計画を組むのは現実的ではないことは読み取れます。
必要な会員数から逆算して、月に何件の問い合わせがいるのかは結婚相談所の集客の記事で計算しています。
連盟に加盟するか、独立系でいくか
個人開業でいちばん大きな分かれ道です。判断材料は「紹介できる会員がどこから来るか」と「書類とシステムを誰が用意するか」の2点に絞れます。
| 連盟に加盟 | 独立系(非加盟) | |
|---|---|---|
| 紹介できる相手 | 連盟のネットワーク会員 | 自分が集めた会員だけ |
| 初期費用 | 加盟金が必要(66万〜200万円) | 0円 |
| 月額の固定費 | 1.2万〜1.7万円台 | 0円 |
| 会員管理システム | 連盟のものを使える | 自分で用意する |
| 契約書面・会員規約 | ひな形が提供されることが多い | 自分で作る(特商法の要件を満たす必要がある) |
| 料金設定 | 連盟の枠組みに沿う | 自由 |
主要連盟の公式料金は、IBJが加盟金200万円(個人契約・税抜)+月会費15,000円にカウンセラー1名あたり3,800円、TMSが月額固定費12,000円(税別)、BIUが加盟金80万円+月会費15,000円、JBAが110万円+月額システム利用料16,500円〜です(2026年9月に各連盟の公式サイトで確認。BIUとJBAは公式サイトに時点の記載がなく、BIUは加盟ページとトップページで加盟金の表記が一致しません)。詳しくは結婚相談所連盟の比較記事にまとめています。
独立系は初期費用がかからない代わりに、前の章で挙げた書面一式を自分で用意する必要があります。概要書面と契約書面は法定の記載事項を満たしていなければならず、ひな形なしで作るなら専門家に依頼する費用を見込んでおいてください。「加盟金ゼロ」が丸ごと浮くわけではありません。
会員をどこから連れてくるかも変わります。独立系は紹介の母数が自分の会員だけなので、成婚まで導ける確率は会員数に強く縛られます。
よくある質問
- 結婚相談所を個人で開業するのに資格は必要ですか?
-
資格も許認可も不要です。ただし資格が要らないことと、義務がないことは別です。結婚相手紹介サービスは特定商取引法の特定継続的役務提供に指定されており、契約前の概要書面と契約時の契約書面を交付する義務があります。個人・自宅・副業でもこの義務は変わりません。
- 開業届はいつまでに出せばいいですか?
-
国税庁の手続案内ページには「事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出してください」と記載されています。「開業から1か月以内」と説明する記事もあるため、提出時期は国税庁のページで直接確認してください。青色申告をするなら、承認申請書は3月15日まで(その年1月16日以後の開業なら事業開始から2か月以内)に別途必要です。
- 自宅で開業しても法律上の義務は軽くなりますか?
-
軽くなりません。書面の交付義務、クーリング・オフへの対応、中途解約時の精算ルール、個人情報取扱事業者としての義務は、いずれも事業の規模や場所で変わりません。むしろ自宅開業では、紙の申込書やパソコンを家族が見られない状態に置くなど、情報管理の工夫が別途必要になります。
- 会員から入会金をもらえば売上として確定しますか?
-
いいえ。中途解約された場合に事業者が請求できるのは、提供済みサービスの対価に加えて「2万円または契約残額の20%のいずれか低い額」が上限です。消費者庁は「入会金は返還しない」という特約を無効としています。入会金は前受金であって、確定した売上ではありません。
- 連盟に加盟せず独立系でも開業できますか?
-
できます。加盟金と月会費はかかりません。ただし紹介できる相手が自分の会員だけになること、会員管理システムと契約書面・会員規約を自分で用意する必要があることは押さえてください。書面は特定商取引法の法定記載事項を満たす必要があるため、作成費用を見込んでおくのが安全です。
まとめ:参入は簡単、努力や仕組み作りは必須
- 資格も許認可も不要。個人・自宅・副業で開業できる
- ただし特商法・個人情報保護法の義務は法人と同じ。規模による例外はない
- 開業届の提出時期は国税庁の案内で確認する。開業日は補助金の可否を分ける
- 最優先で用意するのは概要書面と契約書面。クーリング・オフは8日間
- 中途解約時に手元に残るのは「2万円または契約残額の20%の低い額」+提供済み対価が上限
- 会員情報には要配慮個人情報が含まれうる。取得には原則本人の同意が必要
- IBJの公開データから計算した1相談所あたりの平均会員数は約23名、成婚は年4.40組
最初にやることは、事務所探しでも名刺作りでもありません。入会申込書・概要書面・契約書面・会員規約の4点を、誰にどう用意してもらうかを決めることです。連盟に加盟するならひな形の有無を加盟前に確認し、独立系でいくなら専門家への依頼費用を開業資金に入れておいてください。ここが決まれば、あとは会員を集めるだけです。
本記事の条文・数値は、e-Gov法令検索、消費者庁、個人情報保護委員会、国税庁の各公式ページおよびIBJの公開IR資料にもとづき2026年9月5日に確認したものです。制度の適用は個別の事情によって変わります。契約書面や会員規約の作成にあたっては、弁護士など専門家への確認をおすすめします。

